ハムスターは飼育のスぺ―スがさほど必要なく、飼育用具や餌も安価に入手しやすいため、大人に限らず小さなお子様でも飼いやすい動物です。その愛くるしいしぐさに日々癒され、日ごろから大きな愛情を注いでいる飼い主様がたくさんおられることと思います。
ハムスターは定番のゴールデンハムスターから始まり、キンクマ、ロングヘア、クロクマ、ジャンガリアン、ロボロフスキーなど多くの種類があります。たくさん種類がある上に、犬猫に比べて獣医学的な情報が非常に少ないため、ハムスターの病気の多くは、人・犬・猫の医学の外挿により診断・治療を考えます。
寄生虫疾患、細菌感染症、糸状菌感染症(水虫)、喧嘩による咬傷など、治療がある程度可能な疾患から、悪性腫瘍をはじめとした様々な難治性の疾患があります。診断治療が難しい病気は、明確な指標がないまま手探りで治療を進めることが多くなります。できることには限界がありますが、可能な限り対応するよう努めております。
病気の早期発見のために
ハムスターの健康管理で重要なのは体重測定です。キッチンスケールなどで定期的に体重をチェックしましょう。短期間で体重が減っているようなときは病気のサインであることがあります。
比較的多く来院される症状に、皮膚糸状菌症(水虫)というカビによる皮膚炎があります。毎日でなくとも、1週間に1回はわきの下やお腹側を含めて、脱毛や湿疹がないかをチェックしましょう。
ハムスターの便は乾燥してコロコロしているのが普通です。簡単につぶれたり、下痢をしている場合は異常ですので、治療や食事で改善するものかどうか検討するほうが良いでしょう。
目が開かなくなった、との主訴で来院される飼い主様がおられますが、多くは目の病気でなく、他の疾患(癌、皮膚病、外傷など様々)によって二次的に生じる脱水や栄養障害が原因であることが多いので注意しましょう。
ハムスターは通常、皮下に脂肪と水分を十分に保持していて、もちもちと柔らかいさわり心地をしていますが、脱水や栄養障害になると、皮下組織が固くなります。皮膚にしわが入りやすくなり、元気食欲がなくなっていれば、病気のサインであることがあります。
爪切りについて
野生化の動物と違い。飼育下のハムスターは、飼い主が愛情たっぷりに用意したフカフカの柔らかい床材の上で生活しています。適度に摩擦があれば爪は摩耗して自然と短くなりますが、柔らかい床では爪伸びすぎる傾向があります。
伸びすぎると爪を引っ掛けてケガをしたり、指の関節が曲がってきたりなど、多少の心配が生じるため、程度により爪切りを行うことがあります。
抱っこされてもあまり嫌がらないハムスターであれば、無麻酔で爪切り可能ですが、通常爪切りはかなり嫌がられるため、どうしても必要であればイソフルレン吸入麻酔下で行います。ご相談下さい。
よくあるハムスターの病気
外傷
ハムスター同士で喧嘩したり、ケージの網や回し車に手足を引っ掛けたりして、ハムスターは怪我をしてしまうことがあります。
小さな傷でも要注意
人から見ればほんの小さな傷だとしても、ハムスターの体の大きさから考えると、かなり大きな外傷になります。また、気が付かないうちに化膿や出血があると次第に元気食欲が低下し、ほおっておくと死に至ります。
外傷の治療の基本は洗浄・消毒と抗菌剤の内服です。かなりひどい怪我の場合でも、適切な治療で一命をとりとめることがあります。例えば、ハムスター同士の喧嘩では、かなり凄惨な状態になることがありますが、比較的短期間の治療で元気になるケースが少なくありません。
下痢(寄生虫・細菌性下痢)
ハムスターの下痢の原因は、
- 条虫
- 蟯虫
- トリコモナス
- ジアルジア
- ローソニア感染症(ウェットテイル)
など様々です。複数種類の寄生虫に混合感染していることもあります。また、中には健康なハムスターに常在している寄生虫もあり、必ずしも病原性があるとは限りません。
ハムスターの種類によって原因が異なります。複例えば、ゴールデンやキンクマではローソニア感染症が多くみられ、特にペットショップに入荷直後の発症が多発します。
下痢が続くと、脱水と栄養吸収阻害のため、体力がなくなったり、脱毛がおこったりします。とくに、飼い主様が来院される際、目が開かないことを主訴にされる場合がありますが、多くは脱水による二次的な症状です。
下痢の治療の際は検便をしますので、ご来院の際はできる限り新鮮な便をお持ちください。治療に反応して治癒するケースもありますが、難治性のケースもあります。また、食事内容の変更で治癒するケースもあります。
マイボーム腺腫
まぶたが腫れたり、目が開けず楽なったりして気づく目の病気に、マイボーム腺腫があり、比較的よく遭遇します。瞼の裏側を観察すると、脂質または膿が充満した腺房が白く膨らんでいるのがわかります。
細菌感染や脂肪分泌の過多などのため、涙の成分をつくるマイボーム腺の出口が詰まることが原因と考えられますが、比較的太り過ぎのハムスターであることが多いです。脂肪分の多い食事(ヒマワリの種)を制限することで予防・治療が可能かもしれません。
目ヤニの顕微鏡検査などから細菌感染を疑う場合は抗菌薬での治療を考慮しますが、たまっている脂肪や膿があまりに多い場合は、イソフルレンによる全身麻酔下で溜まった膿や脂肪を除去します。
皮膚のトラブル
犬猫と同様の原因で皮膚の感染症がよく起こります。
- 真菌症
- 寄生虫
- 床材過敏症
などの皮膚のトラブルがあげられます。
とくに幼少時のハムスターはまだ免疫が未熟なため注意が必要です。
皮膚の病気の原因
- 皮膚糸状菌(水虫)
- ダニ
- 毛包虫(アカラス)
- 栄養障害による脱毛症
などが見られます。
皮膚の検査で原因を特定して治療します。
全身性に症状が出ていることが多いため、
- 食欲低下
- 体重減少
- 脱水
などの状態に陥ることが多くあります。
これらの皮膚病は、重症化すると命を落とすこともありますので注意が必要です。
やはり全身の観察とともに体重測定が重要になります(皮膚が良くなると体重が増えます)。
床材の選択も重要性
ハムスターは床材の選択も重要です。
- 広葉樹
- 針葉樹
- 紙製
と、色々な床材がありますが、なかには過敏反応を起こして皮膚炎とかゆみが生じるケースがあります。
一般的には、針葉樹を使った床材は避けるべきと言われています。
床材の変更後に、皮膚の状態が悪くなった場合は注意しましょう。
頬袋の脱出
頬袋の粘膜の傷が化膿すると、それがしこりになって口の外に飛び出すことがあります。
また、口の中の腫瘍が飛び出していることもあります。
頬袋の粘膜の損傷が軽度であれば、そっと口の中に戻して、抗菌剤の内服で様子を見ることもあります。
戻してもすぐ出てしまったり、腫れやしこりが大きい場合は、内科的な治療だとうまくいきません。
その場合は全身麻酔下でしこりを切除します。
予防について
- 鋭利で硬い食物は避ける
→例:潰した乾燥とうもろこしなど - 小さく割ってあげる
- 1日で食べきる量をあげる
→ 頬袋にあまり詰め込まないようにする
腫瘍
高齢のハムスターは腫瘍(ガン)になることがあります。
手術で摘出するか、緩和療法で痛みや苦しみを取り除く治療を行います。
早期発見のため、レントゲン検査や超音波検査を使用することができます。
抗がん剤治療は残念ながら情報が少ないため、当院では現在実施しておりません。
手術の実施によって必ずしも寿命が伸びたり、本人の苦しみが減るとは限りません。
そのため、腫瘍の手術は安易におすすめしませんが、以下のようなケースでは実施を考慮します。
手術を検討するケース
- ごく初期の小さな腫瘍の場合
- 出血が激しく、貧血による死亡の恐れのある場合
- 違和感やかゆみから、自分でしこりを咬んでしまう可能性がある場合